「三津も元気そうで良かった。」
そんな嬉しそうな桂に今からとても重たい話をするのは気が引けた。三津と入江はどうしようかと顔を見合わせた。
「君らの仲も相変わらずだね。」 瘦小腿醫美
こっちは二月も離れて寂しい思いをしたのにとからかうように笑った。それを聞いた三津は腹を括って桂の正面に正座した。
「その事で……私達の関係の事でお話が。」
三津の真剣な顔に桂も姿勢を正した。その場に居合わせる事になった高杉と山縣も神妙な面持ちでその場に腰を据えた。
「私にはこの関係を続けるのは難しいです。それで……二人と距離を置きたいからどこかに一人で暮らす場所をもらえませんか?」
「一人で暮らす?私とも,九一とも離れると言うのか?」
三津はしっかりと桂の目を見て頷いた。本気なんだと訴えた。だが桂はすぐに却下した。
「駄目だ。歩く問題児を一人に?絶対駄目だ。」
言うと思ったと笑みを浮かべた入江はそれならと手を上げた。
「ならば私がここを出ます。萩へ戻ります。三津の傍に居ると言う約束は果たせませんが,私が身を引くのが一番でしょう。あなた方は夫婦なのだから。
私と木戸さんの板挟みで三津が苦しむなら私はそれから解放してあげたい。
もし有事の時は呼び戻して貰えれば奇兵隊の力になります。
私ももう我慢出来る自信がないんですよ。」
男なら分かるでしょ?と笑った。桂は押し黙ったままじっと三津の目を見ていた。
「三津は……九一と離れてもいいのか?」
「私も約束守れる自信が無いので……。」
だったら離れるしかない。三津としては一人になるのが一番気が楽でいいが,心配性の桂が許してくれないのは分かってた。ならば残された選択は入江との決別だ。
「それとも私が萩に行くのなら一人でも許してもらえるんでしょうか?」
萩には一之助がいる。一之助も嫉妬の対象だから許してもらえるとは思ってない。
桂がまた黙り込み,沈黙の時間が続いた。
「少し考える時間が欲しい。」
桂は腰を上げて一人で部屋を出た。廊下から足音が聞こえなくなって全員で息を吐いた。
「私,話してきます。」
一応夫婦ですからねと笑ってその後を追いかけて行った。
「これがお前らの決断?」
高杉は納得は出来ないがどうなれば納得出来るかと言われても答えはない。
「私らと言っても三津の気持ちが決まっちょる。一人になりたいのが三津の本音や。私はそれを叶えてやりたいと思う。そうしたら……離れんにゃいけんやろ。」
恋なんてするもんじゃないなと少し目を潤ませて入江は笑ってみせた。桂は急ぎ足で屯所の門を出た。その背中を三津は必死に追いかけた。
「小五郎さんっ待って!」
三津の声に足を止めて振り返った。一人で考えたかったのに何で付いてきたんだと困惑した。
「疲れて帰って来てるのにこんな話をしてごめんなさい……。癒やしてあげよって思ってたけど……。」
「癒そうと思ってはくれてたんだ。」
なのにこんな話をするなんて酷いねと嫌味を浴びせてしまい,桂は心の中で自分に対して馬鹿野郎と罵った。
「ホンマにごめんなさいっ。小五郎さんの妻であろうとする自分と,九一さんを想う自分の矛盾に耐えきれんくて……。」
三津は泣きそうになったのを堪えた。ここで泣いては桂をより困らせる。だから必死に堪えた。
「私が居ない間に何かあったんだね?」
「前の関係に戻れないと痛感しました……。はっきりと九一さんへの気持ちも自覚して,男女の仲になって,喧嘩別れした訳でもないのに関係は終わりになって……。」
「全ては私のせいだね。」
「そう言うつもりで言ったんやなくてっ!」
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